見つけたとき、ノーベンバーはもう冷たくなっていた。
目を閉じて仰向けに倒れて、胸から溢れた血が舗装路の上に流れて、こびり付いている。
深夜になってもまだ走るトラックの騒音が鼓膜を叩き、目眩がする。
眩しすぎる街灯に網膜を焼かれてふらふらと立ちくらみがした。
サングラスぐらいは持ってくれば良かっただろうかと頭の片隅でどこか冷静に考えた、
そんな自分が馬鹿らしくて笑おうとしかけて、初めて頬が引きつっているのに気づく。
意識した途端、視界がぼやけて鼻の奥がツンとした。瞳に溜まった涙を零さないよう目を瞬く。
輪郭が曖昧になったりはっきりしたりを繰り返す内に、
意識がずるずるとどこかへ引きずられていくような感覚がして、一瞬ふっと浮遊感を味わった。
なんとか気を保って、いつの間にか座り込んでいたその体勢のまま、
這いずるようにしてノーベンバーのところまで移動する。
そっと指先を伸ばして触れた頬は、低温体質の彼の指先よりも尚冷たかった。



「…ばか」



ぽたりと彼の頬に涙が落ちた。
ノーベンバーの前で泣いたことはあっただろうか。一度くらいは、あぁそう、確かにあった。
理由は思い出せないけれども、抱きしめて慰めてくれたことは覚えている。
優しく頭を撫でられて、泣きじゃくって縋りついた。
、泣かないで」、そう言った声を思い出して、けれど今は何の慰めにもならない。
目の前で彼が死んでいるのに。



「ノーベンバー…」



私はこの名前しか知らない。彼について知っていることは、あまりに少ない。
知らなくても満足だった。いつ死ぬかも分からない身でも、愛し合えるだけで幸せだった。
それなのに、どうして、たった一つの幸福を、失うのか。



「あいしてるよ」



身を屈めて、触れた唇は氷のように冷たかった。








路上で散った、い氷の花
本当は、このまま死んでもいいと思っていた





08/3/12