晋助とどういう関係なのかと問われれば正直な話、答えに詰まる。

友人と呼べるほど穏やかでもないし、そもそも晋助に友人という分類の知り合いがいるのかどうか。 銀や桂はそうなのかも知れないけど、晋助には多分そのつもりはないと思う。この間決裂したらしい し。じゃあ恋人なのかと言えばそうでもないような気がする。そりゃキスもセックスもするけど だからって恋人とは限らないし、晋助に愛とか恋とか、そういう名前のものはないんじゃないか。いや 失礼じゃないよ。そんな甘いもの、躊躇いなく切り捨ててしまえるような人だから。
あぁじゃあ私は一体晋助の何なのだろう。一緒にはいるけど私は鬼兵隊士じゃないし。晋助も戦力 として数えてないし。戦闘になりそうだったりなったりしたら、引っ込んでろってわざわざ言いに 来るし。…あれ、いちいち確認しに来るってことはそれなりに大切にされてるのかな。それとも単に うろつき回られると邪魔なだけか。とりあえず邪険に扱われることはないけど、それは別にイコールで 大切ってわけでもないよね、うん。この間怪我したとき不機嫌そうだったけど気のせいだよね。あれは ただ所有物を傷物にされたことに対する苛立ちだよね、そうだよきっと。
…なんかずれてる?何を考えてたんだっけ。そういえばどうして考え事なんかしてたのか。……… あぁ、思い出した。昨日来島さんに言われたんだ。…言われたというか問いつめられた、か。お前は 晋助様の何なんだと、敵意の籠もった目で。どうしてかなぁ私何か彼女を怒らせるようなことしたの かなぁ。私が信用ならないのかな。そりゃ時々晋助から離れたりもするけど、けど晋助の隣が私の 居場所って決まってるわけでもないし。出て行くのだってこっちの用事だけど一応仕事なんだし 仕方ないよなぁって、晋助も何も言わないし。…あの子はひょっとして晋助のことが好きなのかな。 だからいつも好きな人に付きまとってる私が邪魔なのかな。付きまとってるつもりはないけど。…今 まであんまり考えたことなかったけど、晋助は私のことどう思ってるんだろうなぁ。それによって 関係が変わるのか。じゃあ晋助はどういう関係だと思ってるんだろう。案外何とも思ってなかったり して。晋助ならあり得るなぁ。ただの性欲処理とか、そういうのもちょっと寂しいな。

……ん。今揺れた気がする。船だからそりゃ揺れるけど、そんな大きいものじゃなくて。…そういえば 私何してたんだっけ。いつの間にか寝てた?晋助の隣で本読んでたんだけど、あれ、ヒロインが海に 落ちたところから記憶がない。私も海に落ちてたりしたら面白いんだけどな。あ、そしたら晋助に 怒られる。…また揺れた。寝てるんだったらそろそろ起きた方が良いよね、今何時だろう。



「……、…」



ぼんやりと目を開けて床が近いなって思った。畳の上に髪の毛が流れてて、それと晋助の足が見える。 …足?何で。胡座かいてるみたいだけど、ん…あれ、この位置的に言えば、私晋助の足の上に乗って る?
瞬きではっきりした視界を持ち上げて、隅の方に窓の外を眺める晋助を見つけた。あ、やっぱり 乗ってるんだ、じゃあ膝枕だよねこれ。私が勝手に倒れ込んだだけかな、それだと落とされそうな気も するけど。
ふぅ、って晋助が煙管の煙を吐き出して、夕陽に照らされた横顔が綺麗だと思った。…あの子は 晋助のことが好きなのかも知れない。だってほら、こんなにも綺麗な人だから。好きになっても仕方が ないよね。でも勝手に決めるのも失礼だよね、ただの忠誠心かも知れないのに。



「…晋助」



寝起きの所為か、少し声が掠れた。外に向けていた視線を私に固定して、晋助が薄く笑う。よく見れば 晋助の後ろに見える窓の、夕空がゆっくり動いている。いつの間にか船が出ていたのか。今度は何処へ 行くのだろうかと頭の片隅で考えた。暫くしたらまたあっちの方にも顔出さなきゃなんないのかな。 別に私がいなくても大丈夫のような気もするけどたまには帰って来いって煩いんだよなぁ。いっその こと誰かに譲ってもう引退しようかな。そしたらこっちで日がな一日ごろごろ出来るよね。晋助に嫌な 顔されるかも知れないけど。



「やっと起きたか」
「ん…」



やっぱり寝てたのには気づいてたよね、そりゃそうだよね。じゃあ起きるまで待っててくれたのかな。 やることがなかったからだろうけど、膝枕も黙認だったわけか。それか晋助がしてくれた?いや考え にくいね、放置してただけか。あぁでも一日中晋助とごろごろ出来れば幸せだなぁ。晋助はそんなこと しないだろうけど。本当に後任決めようかな。…駄目か。晋助が私の存在を黙認してるのはあれが あるからかも知れない、し。まぁ利用価値があれば誰だって傍に置いておきたがるだろうしね。



「晋助」
「なんだ」
「キスして」
「……」



あぁ、別に、どうでもいいや、と。
ほろ苦いキスをしながら思った。

ごめんね来島さん、また考えとく。





07/10/07
背景素材:蒼空散歩