09/02/23
言葉には出来ず
――言葉には出来ず――
「…ごめんなさい」
が幾度目かの謝罪を口にすると、ルートヴィッヒはただ呆れたようにため息を吐いた。
鼻先を掠めた吐息に、きゅ、とは唇を噛む。
「もういい。それより、本当に怪我はないのか?」
「…私は…、ない」
そうか。
安堵が籠められた呟きに、ますます彼女は項垂れる。
言葉を重ねれば重ねるほど追いつめることになり、ルートヴィッヒは困ったように眉間に皺を寄せた。
「…どうしてあんなことをしたんだ?」
それでも事情は把握しなければならないと尋ねると、やっとは僅かではあるが顔を上げた。
「いや…、ちょっと、自暴自棄になって」
「……自暴自棄でバッシュの領地に突っ込んで行くのか?」
「……ごめんなさい」
ルートヴィッヒが間に入らなければ、大怪我を負っていただろう。それはもよく分かっている。
だからこそ――なぜ止めたのかと、そう思いながらルートヴィッヒの傷に手当てを施していく。
(いっそのこと、そう――見殺しにしてくれれば良かったのに)
こんな怪我を負うほどの価値は私にはないのだから。
私はあなたにとって有益なものでもなんでもない、それどころか足手まといにしか過ぎない。
いつか、捨て置かれるくらいなら、それなら始めから――
「…?」
くい、と頬に添えられた手が顔を持ち上げた。
心配そうなルートヴィッヒの顔が、を覗き込む。
「どうした?」
動きの止まった手を握り、ルートヴィッヒが問う。
「……なんでもない」
手当てが済むまで、言葉が交わされることは、なかった。
(
俯いた彼女に言葉は届かず)