09/02/19
さよならの詩(※リボラン前提)
――さよならの詩――
「ランボ」
その日やってきたは、黒いコートにロングブーツ、銀のピアスの簡素な出で立ちで、
まるで何かを悼んでいるようだと思ったことを覚えている。
薄く笑みを浮かべた唇が紡いだ言葉を、オレは咄嗟には理解できなかった。
「お別れしましょう、――ランボ」
直前に見たランボの顔は、呆然とした表情から泣きそうに歪んだところだった。
けれど今目の前にいる彼は際立った感情を浮かべてはいない。
ただ少しだけ不思議そうにゆっくりと瞬いて、口端に笑みを乗せた。
「今晩は、若き」
「今晩は、未来のランボ」
Tシャツにジーンズのラフな恰好をしたランボは、緩く息を吐いて髪を掻き上げた。
笑みは半ば苦笑に変わり、ついさっきまでそこにいたランボが放っていた張り詰めた空気を、
ゆっくりと穏やかなものに変容していく。
これが十年の差なんだろう。未来を描きかけて、止めた。
「昔のオレが、また迷惑を?」
「ごめんね、私が悪いから気にしないで」
「…が?」
「そう。引っぱたいたようなもんだから」
そうですか、と頷いたランボは、沈黙を保って私を見遣る。
手慣れてるなぁ、と浮かぶ苦笑は自嘲にも似ている。
結局は、幼い子供のすることでしかないのだろう。大人から見ればひどく滑稽な。
彼の好意に甘えて、前置きも装飾もなく端的に問うた。
「未来のランボ。――リボーンを、愛してた?」
「――ええ。リボーン、彼がオレの全てでした」
「私を…、好きだった?」
「はい。…、貴女がオレの世界でした」
そう。頷きと共に、涙が一筋頬を伝った。
濡れた跡に彼の指が触れ、目尻に優しく口づけられる。
自然な動作で抱き寄せられて、大人びた香水の匂いを嗅いだ。
広い胸板に額を付けたまま、テノールの声を聞く。
「愛しい…。どうか、幸せに」
ありがとう。
涙声にならないように呟いて、これが最後だと、温かい身体から身を離した。
(
ランボが帰ってくる前に、行くよ)
09/02/19