やさしいひと



「誰も傷つけずに、新しい世界が成せると思う?」
「…確かに、難しいことかも知れん。だが、不可能ではない筈だ」


本当は、誰よりも夢見がちなのかもしれない。
大真面目に答えた小太郎を眺めながらひっそりと思う。――あぁ、優しすぎるのだ。

常時ふわふわと変節的な坂田より(現実を見ているからこその現実逃避)、
夢を語り宇宙に行った坂本より(成功させるだけの技量があった)、
江戸を壊すと嘯いている高杉より(これ以上ないほどシンプルで明確な目的)、
その優しさだけで世界を変えようとしている小太郎が。
きっと、誰よりも優しくて誰よりも夢見がちな ばかなひと なんだ。


「…抱いて」
…?」
「抱いて、欲しいな。小太郎」


擦り寄るように抱きつくと、戸惑いながらも腕を回してくれた。
けれどそれ以上は進まずに、ただあやすように色事の欠片も感じない手つきで背を撫でる。
優しいんだ、優しいから、だから辛いんだと、少しだけ泣きそうになった。


「…小太郎」
「何だ」
「こういうときはさ、知らないふりしなきゃ駄目だよ」
「…そうか」
「そうだよ」


それでも彼は唇を合わせただけで、布に包まれた素肌に触れようとはしてくれなかった。




やさしいひと

ねえ貴方って ひどいひと 、私が辛くて苦しくて哀しいのを知っている?見て見ぬふりをしているのか
無垢な瞳は歪んだ感情を映さないのか、どちらにしたって救けてはくれないのだから。いっそのこと
捨て置いてくれれば良いのに、時折与えられる体温が愛しくて恋しくて、私は貴方が思うような
可愛い女の子じゃないのにそれでも他に術がなくて、手を伸ばすことさえできないの。
――ねえ知ってるの?答えてよ、 いとしいひと 。





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09/05/05