目が覚めて最初に視認したのは、白いシーツとその上に散らばる白銀の髪だった。ぼんやりとそのまま 視線を下げると、腕の中でが眠っている。無防備な寝顔に自然と頬が緩み、そんな自分に苦笑した。 ――すっかり彼女に参ってしまっている。
を起こさないようにベッドから抜け出し――少し寒そうにしたので毛布を掛けた――、 部屋に備えつけの小型冷蔵庫から適当にワインを取り出す。もう一眠りしようかとも思いはしたが、 眠気はすっかり覚めてしまっていた。
カーテンを開けると、薄靄に包まれた街の向こうにそびえ立つ(ゲート)が見えた。東の空が白んで きている。まだ暫くは太陽は昇らないだろうと見当をつけ、ワイングラスを片手にロッキングチェアに 座った。窓からの薄明かりを頼りにの姿を眺める。極めて白に近く、少し灰色に艶がかって光の 加減では銀色に見える髪。肌は太陽を知らないかのように白く、そして実際、は滅多に陽光を 浴びようとはしない。赤の瞳は時折焦点が合わずにぼんやりとしていて、不規則に揺れることにももう 慣れた。――日本語では、先天性色素欠乏症と言ったか。
ワインを一口飲み、外に目をやるとそろそろ陽が昇ってくる頃合いだった。テーブルのランプを点け、 カーテンを引くと部屋は僅かに薄暗くなる。まだ少し中身を残したグラスをテーブルに置き、ベッドに 上がるとの髪を撫でた。頬に手を滑らせ、昨夜付けた首の赤い痕をなぞったところでと目が合う。 少し前から起きていたのか、ぼんやりしている様子はない。軽く微笑すると声をかけた。


「おはよう、
「…ん」


小さく返事をした唇に口づけて、猫をあやすように喉をくすぐる。は身じろぎすると、シーツに 手をついて身を起こした。肩口にすり寄せられた頭を撫でて、二、三度瞬いたあと再び瞳を閉じたに 囁く。


「…おやすみ」




「ん、」と小さな声が返事をした。



07/09/14→08/01/21