薄ぼんやりとした視界で、引き締まった人肌を見つけた。二、三度瞬きをしてそれが腹筋だと気づき、 目を動かして胸板を通り赤い痕がついた首筋を上って窓の外へ視線を向けている顔まで辿り着く。 淡い水色の、アイスブルーの瞳は朝焼けにほんの少し染まっていて、(るりいろ、)と口の中で この国で知った言葉を転がした。暇潰しに入った宝石店で店員がそう説明したラピスラズリを見て、 少しもの悲しい気持ちになったのを覚えている。
今のノーベンバーの雰囲気はそのとき感じたものと同じで、これで紫煙をくゆらせてでもいればずっと 様になっただろうけれど、彼はそれが契約の代価でも――もしくは、代価だからこそ――好きに なれないらしく、私も唇を合わせたときDEATHの苦味がするのには慣れない。
煙草の代わりに彼はワイングラスを持っていて、硝子の中で赤い水がゆらゆらと漂っている。 テーブルの上にはボトルがあり、ロッキングチェアに座った彼は昨夜から裸のままだった。それは 私も同じで、顔の近くに焦点を合わせると白いシーツの海が見える。
窓際に視線を戻すと、昇り始めた太陽が薄雲を通してちりちりと眼球を焦がす。ベッドに沈み込んで しまおうかとまだどこか霞がかった頭で思案していると、ノーベンバーが腕を伸ばしてカーテンを 引いた。陽光が遮断され、部屋を浮かび上がらせるテーブルの上のランプに下ろした瞼が赤く透け、 その中を不純物のように焼き付いた光が青や緑の斑点になって彷徨う。コトリとグラスが置かれる 音がして、気配が動いた。ベッドが軋み、髪を撫でられる感触に目を開ける。骨張った手が頬を滑り、 首に触れたところで目が合った。


「…おはよう、
「…ん」


微笑してノーベンバーが軽く唇を重ねる。離れたあと猫にするように喉をくすぐられて身を捩った。
手をついて起き上がり、半ば彼の足に乗っかる形で肩口に額を当てる。頭を撫でる手が心地良くて、 早朝の静かな空気の中でもう一度睡魔と温もりに身を委ねた。