「…?」
「ぷ?」

デデデ城の廊下を歩いていたところ、 ふよふよと顔の高さを浮遊している球体を見つけたメタナイトは、 少しばかり驚きの混じった声で彼女を呼んだ。 呼ばれて振り返ったはいつもの半眼に飴を銜えて、 メタナイトの姿を認めるとぱたりと一度羽を上下させる。
すい、と足を止めた彼に近寄り、何か用かと身体全体を斜めに傾けた。

「いや…、特に用というわけではないのだが」
「ぷ」

そう、と言うかのように身体を沈めたは、言葉を交わす必要性を感じたのか、 ここに至ってようやく人型になって地に足を着けた。 銜えていた飴は人の口には大きかったのだろう、 かぷりと先を囓っただけで、カラフルな渦巻き模様がメタナイトの眼前にさらされている。
そういえば、先程カービィが同じものを持っていた、 と舐めるというより食べるといった様子のカービィを思い返しながら、 メタナイトは一緒に遊んでいたのだろうと検討をつけた。
右手で飴を持ち、ペロリと唇をひと舐めしたが今度は人の言葉で問い掛ける。

「どこ行くの?」
「大王の間へ。陛下がお呼びなのだ」
「また厄介事?」
「さぁ…、わからん」

ふぅん、と飴の先に歯を立てながらが相槌を打つ。
エスカルゴンほどではないが、メタナイトもよくデデデの悪巧みに巻き込まれていた。 ナイトメア社を利用していた頃よりはマシだと聞いたが、 当時を知らないにとっては現在も首を傾げたくなるくらいにデデデは横暴である。 彼女の一族は特に、血縁を重んじてはいるものの基本的には実力社会であるため、 大した武力も権力もないデデデが何故あれほどの振る舞いを出来るのかよく理解できない。 財力はププビレッジの住民の血税のおかげでそれなりにあるようだが、 そもそも大王というのは彼の自称ではなかったか。 つくづく呑気というか、平和なところだと、ここで暮らすようになってから幾度となく実感している。
最近はもう順応しつつあるのか、デデデについても「あれはああいうものなのだ」と 投げやり気味に自分を納得させていた。もとより他物に深い興味を抱く性質ではないのだ。
例外的に執着しているメタナイトを前に、 がり、と頭から少しずつ飴を削りながらは微苦笑した。

「遅くなると怒られるね。いってらっしゃい」
「ん、あぁ、そうだな」

メタナイトも仮面の下で苦笑を返し、歩みを再開した。
数秒その背中を見つめて、踵を返しかけたはふと思いついて声を上げる。
振り向いたメタナイトは、なんとなく驚いた顔をしているんじゃないかと思った。

「メタナイト!」
「、どうした?」
「終わったら来てね。紅茶入れて待ってる」
「…あぁ…、わかった」

仮面の下は、優しく笑っていた気がする。



枯葉色の午後





10/08/14
お題:赤小灰蝶      背景素材:ふるるか