覚悟していたほどの激情はなかった。それとも麻痺してしまったのかもしれない。
間接的に殺したことはこれまでに何度かある。
トラップなり忍術なりの物理的攻撃と、幻術による精神的攻撃のどちらとも。
ただ、手に持った忍具で、人としての機能を破壊する感触を直接味わったのは初めてだった。
そうは言っても、単純に戦闘不能にする程度に傷つける時と比べて、
大した違いは見出せなかったのだけれど。
「…?どうした?」
すぐに帰って来なかったのを心配したのか、班長が茂みの向こうから声を掛けた。
呼吸と脈拍を調べて死亡を確認し終えた、そのまま「問題ありません」と言葉を返す。
現れた班長は死体を見て、「あぁ、そうだな」と納得したような声音で呟いた。
怪我の有無を問うたあと、情報収集は必要ないから処分を、
という指令に従って焼却処分を行った。
仰向けにした骸の胸の上に札を置き、数歩離れて印を組むと音もなく青白い炎が上がり、
ものの数秒で僅かな灰だけが残る。それも、風が吹いて霧散した。
「…上出来だ」
背後で呟く班長に一つ頷きを返して、共に集合場所へと戻った。
数秒もしない内にチームメイトの二人も現れて、軽く情報の交換をして帰路に就く。
微かな筈の血の臭いを嗅ぎ取ったのか、
一人が探るような視線を寄越したけれどもう一人は気づかないようで、
里に着くまでそのことには触れられなかった。
***
「」
「あ、イタチ」
任務報告を終えて解散が告げられた直後、受付の入口横で待っていたイタチから声が掛かった。
じゃあね、とチームメイトに手を振ってイタチに駆け寄り、外に出るまで背中には視線を感じていた。
素直にバイバイと手を振り返した彼とは別のもう一人と、――今回の任務の班長のものと。
「怪我は?」
「ないよ。今日もいつも通り、順調」
「そうか」
「イタチは?」
「問題ない」
「そう」
今日も同じ、昨日のように、一昨日のように、
明日のようにイタチと他愛ない話をしながら夕飯の買い物をして、
分かれ道で手を振ってまた明日、と笑顔で言って家に帰る。
少し家事をして、御飯を食べて、日付が変わるまでには眠りに就く。
誰かの命を奪ったところで、私の生活に変化はない。
それが自然なこと、当たり前なことだと、私も、そしてイタチも思っている。
無情を肯定する感情が違うことには、薄々気づいてはいるけれど。
「イタチ」
「どうした?」
「好き」
「……なんだ、いきなり」
「んー、なんとなく」
一緒に笑い合えるなら、それでいいと思う。
それだけで、いい。
***
「今のところ、問題はありません。…無さ過ぎるぐらいです」
「…ふむ」
「うちはイタチの方も、同程度だと聞いていますが」
「…そうじゃな、…あの二人は…」
火影邸の執務室にて、三代目と相対する男が言葉を紡ぐ。
その口振りは、話題に上がっている少女と少年の双方に対して、警戒心を宿している。
比べて三代目の方は、同じ懸念でも気遣わしげな色が濃い。
物憂げに、パイプの紫煙をくゆらせている。
「やはり、二人を組ませた方がよろしいでしょうか?」
「いや…。対人も任務も、問題がないのなら今のままでよい」
「そう、ですか」
「いずれは、組んでもらうことになる。…そうなると、他を受け入れたりはせんだろう」
「…でしょうね」
「もう暫くは、面倒を見てやってくれ」
「…わかりました。では、失礼します」
「ご苦労じゃったな」
の指導教官を見送り、三代目は一人嘆息した。
近く中忍試験が行われる。イタチもも、難なく中忍に昇格するだろう。
その前に一度、せめてとだけでも話をした方が良いと考え、
三代目はそこで一旦思考を打ち切った。
外はそろそろ、日没を迎える。
昨日、今日、明日
(
私を変えられるものなんて、そうそうありはしない)
11/03/14