傷の舐め合いですか、と誰かに聞かれたことがある。

その時の俺は何を思っていたのか、聞いてきた奴を一瞥しただけで特に何も言わなかったのだけど、 今だったらそいつが二度と俺にも彼女にも近づけない程度のことはするかもしれない。 (けれどもし、それを言ったのが俺にじゃなく彼女にだったなら、きっと俺はそいつを殺してしまうだろう)
確かに俺も彼女も同種の、傷と呼べるものを持っている。ただ違うのはあの頃の俺は今よりずっと “軍人らしい”軍人(つまりは軍のためなら何をするのも厭わないということ)で、“死”に関して さほど興味も感慨も持っていなかった。だから今は、そのことについて少しの感傷と僅かな苦々しい 気持ちだけが残っていてあぁ俺も子供だったんだなと思い返すことができる。けれど彼女は違う。彼女は 他人を殺して自分が生き延びることの重さをわかっていた。――わかり過ぎていたのかもしれない。俺が 感じなかった罪の意識を彼女は感じて、俺が考えなかった殺めた人の家族や恋人を彼女は想った。彼女が それを思い出すには今でも苦痛が伴うようで、時折悪夢に魘されては小さく震えている。


――傷の舐め合いですか、と。そう尋ねたのは誰だったか。
確かに俺も彼女もあの戦争に参加していた。けれど、俺と彼女では違い過ぎる。





「ッ……、っ…!」
「…大丈夫。もう、大丈夫だ、フォルテ」





俺にはきっと彼女の傷に触れる権利はない。
震える彼女の身体を抱きしめて、呟いた慰めの言葉はどこか空虚に響いた。




傷を庇うその腕にも傷





08/01/30