二人揃って素裸で、一枚の着物を寄り添って被って、ただ雪の降る庭を見ていた。
いつもは寒いと布団に潜る蛮骨も、風邪を引くと呆れるも大人しく温もりを分け合う。
はぁ、と吐いた息は視界を一瞬霞ませた。
厚く積もった雪が音を吸い取った中で、身動ぐたびに微かな衣擦れだけが静寂を割る。
何を思っているのかと蛮骨はを見遣った。
いつの間にかすっかり別嬪に成長していた幼馴染みは、
近頃どこか遠くを見つめていることが増えたように思う。
自らの下に組み敷けばその目は確かに蛮骨を、彼だけを映しているのに、
熱が収まれば意識はまた時折ふわふわと中空を漂い始める。
いつか煙のように消えそうな彼女を繋ぎとめておきたくて唇を貪り、
それでも自分に縛り付けるのは違うんじゃないかと寝息を聞きながら考える。
答えの出ない思考に疲れ、外気に体温を奪われひやりと冷たい頬に唇を寄せると、
珍しく甘えるようには身をすり寄せた。
冷気に凍える身体のうちで、蛮骨と触れ合っている部分のみが僅かな温もりを保っている。
自分よりも体温の高い蛮骨の腕に身を預けて、は目を閉じて口づけを受け入れた。
年々広がりつつある体格差を知りつつ、それでも彼の挙止動作は時折子供のようだと彼女は思う。
甘ったれのごとく引っ付きたがり、駄々っ子のように我が侭を言い、
頬を膨らませて拗ねて、けれどが呆れて取り合わないと途端に消沈する。
それでも、抱き寄せる腕の力強さや、熱を帯びた眼差しや、偽りなく言葉を紡ぐ低い声は、
どうしようもなく一人の男なのだけれども。
「蛮骨」
囁くように呼んでは瞼を開いた。
見つめ返す無垢な瞳に微笑して、ぎゅう、と逞しい身体に抱きつく。
「?」と戸惑いを含んだ声とは裏腹にしっかり抱き留める腕に笑みを深めて、
寒さで赤くなっている耳に唇を寄せた。
「あいしてる」
瞬きの間を空けて身体が浮き、少しばかり乱暴に布団に押し付けられる。
冷たい唇が触れ合って、じわりと温かさを生むのを感じながらは求められるままに身体を開いた。
降り続く雪は、荒い息遣いと喘ぐ声とを吸い取って、庭には変わらず静寂が横たわる。
の視線の先にはいつだって自分がいることを、
遙かな眼差しで彼女は去りゆく彼の背中を見つめていることを、蛮骨は知らない。
やがて障子の開け放たれた部屋も静かになり、
代わりに身を寄せ合って眠る二人の呼吸が微かに空気を揺らした。
いつかの雪の日
10/02/11